JEIS Aoyama

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ジュエリーについて 輪のジュエリー

輪のジュエリー

ジュエリーには、ネックチェーン、ペンダント、ブレスレット、アンクレットなど「輪」の形をしたものがたくさんあります。この原型をたどっていくと、その最初にあるのは、首に掛けた「魔除け」の首飾りでしょう。

何かを身につけて自己表現をしたいと思ったとき、首から提げるのが一番手っ取り早いですよね、それはまた、自らで一番大切と思われる急所の部分をぐるりと取り巻く形になります。何千年か前の人類は、自らに害をなす危険な悪霊や魔物を実在として認識していたでしょう。そしてそれらに対抗力があると考える物を身につけて自らを守ろうという発想はごく自然で、その場所として首・胸元は当然の選択であったでしょう。

それは時と共に発展し、同じものを身につけて同族であることの目印にしたり、同じ社会の中での地位、所属を示すものになっていきました。
「社会」を形作って生きる人間にとって、その社会の中で自分がどういう地位にあるかを自他共に認識することは大切なこと。そのような「目印」を身につけることが社会のルールに対する服属を意味し、同時にそのことによって得られる社会的保護・権利の象徴ともなります。

ジュエリーをそういう視点で見れば、色々なことが見えてくると同時に、ジュエリーを上手に使いこなす元の知識ともなります。

・・・仕事である町を訪れたとき、スケジュールにキャンセルがあり、何時間か空いてしまったことがあります。ふらりと入った映画館で上映されていたのは、かなり古い白黒の洋画でした。町に住む中年のお医者さんと郊外に住む主婦のアバンチュールの物語。かなりうだつの上がらない感じのそのドクターが、たまたま知り合いになった人妻をぎこちなく、且つ一生懸命口説くのです。

指輪

その最初の、カフェでのデートシーン。その人妻が小さな十字架を首に掛けていたのを見て、私は、あれ?
と思いました。当然のことながらそれは自分が一つの宗教と、それに象徴される道徳律に服している、という表現です。そのルールの中では不倫は許されません。私の感覚からすれば、もしお医者さんがどうしても自分の情熱を成就させたければ、とりあえず彼女に何かすてきなジュエリーをプレゼントして、十字架を外させるしかありません。そのような展開になれば、それはそれで結構おもしろいとは思ったのですが、ちょっとそこまでたどり着きそうにありませんでした。案の定、凡庸なその主人公はそのことに気づくはずもなく、色々すったもんだの末、結局その人妻は自分の家庭に逃げ帰るのです。スタイリストの余りにも的確なジュエリーの選択が、結末まで予想させてしまう、なんとつまらない映画!

このようにジュエリーは、時として人間にとってファッションを越える存在です。

たとえば結婚指輪はこのような「輪のジュエリー」の代表的存在ですが、それは、一人の男と一人の女が、結婚という制度の中に身を置いている、つまり、制度が課した制約を受け入れ、許された権利を主張している、という表現になります。ひとたびこのような常識が成立すると、結婚指輪をしない夫婦には、お互いがより緩やかね結びつきを許容している、という感覚が生じます、「輪」のジュエリーが社会的意味を持つと、あってもなくてもそれなりの意味を生じさせるのです。

ブレスレット

「輪」のジュエリーには、「腕輪」というのもありますね。代表的なものはチェーンのブレスレットですが、これの元の名前は a slave bracelet。 奴隷の識別用の腕鎖の意味です。奴隷であることは大いなる束縛に違いありませんが、その地位に甘んじれば生存は保証される。しかし、一旦その鎖を断ち切って自由になれば、今度は自らの生存は自ら保たねばならない・・・。本来の意味を失いそのデザインだけが残って、さらに贅沢に貴金属で作られたチェーンのブレスレット。それの意味するものとは何なのでしょう。

私は(誤解を恐れずに言うとすれば)、現代における a slave bracelet は男性の腕時計ではないかと思います。それは自分が、「時間」によって象徴される現代社会に一員として属している、常に必要とされている人間である、という表現に他なりません。ある地位に就いたらそれに相応しい(ブランドと価格の)腕時計をしなければ、という意識、それは計器としての正確性より、「自分はこういうものですよ」という主張に力点が置かれた、「シグネチュアジュエリー」そのものと言っても過言ではないでしょう。

チェーンのブレスレットのルーツを a slave bracelet に求めましたが、チェーンれにはもう一つ、違った意味合いがあります。それは論理的説明を超えた、人間の心の深奥部にある性的な連想です。もともと性的表現はジュエリー本来の役割のひとつ。男と女の、不可思議な関わり合い、言葉では説明できないだけに、より深く、より強い自己表現とも言えましょう。
女性が腰に巻いて垂らしたチェーンのベルトや、足首に巻き付けたアンクレット。それに強い性表現を見るのは、私だけでしょうか。